初めて来た人へ

〜君のことが〜
〜第2章〜 〜違和感〜

 美術部に誘われてから数日後、彼女、伊吹みなもからあるメールが届いた。

『速見君、こんにちは。元気?……って、学校で会ったんだから元気だよね。えへへ… それで、早速お願いなんだけど、今度の土曜日、絵の仕上げをしたいから学校まで来てもらえないかな? 希ちゃんも来るって言ってたから、私みんなの分のお弁当作っていくね♪それでは、お返事待ってます。       伊吹みなも』

 この、メールを見た後、一応、携帯のスケジューラで予定を確認してみたものの、その日には特に何の用事もない。俺はみなもに『大丈夫だ』という返信した後、眠りについた。

 約束の土曜日…俺は、いつもより早起きをして、いつもより念入りに身だしなみを整えて家を出た。帰宅部の俺が休日なのに学校へ行くことを親に不思議そうな顔で見られたが、学校へ行くと言ったら、とりあえずは納得してくれた。

 俺の住んでいる藍ヶ丘から学校のある澄空までは、シカ電で二駅。俺はポケットから定期を取り出すと、ちょうどホームに滑り込んできた小柄な車両に乗り込んだ。

 ガタンゴトン〜、ガタンゴトン〜

車掌「次は、中目町〜、中目町〜」

 休日だというのに珍しく早起きしたせいか、俺は隣の駅である中目町までのわずかの間寝てしまっていた。車掌のアナウンスで起きた俺の目に見知った女の子の姿が映った。

駿「あれは、相摩……?」

 シカ電の反対側のホームで電車を待っている女の子の横顔。それは、この前美術室でみなもに紹介された相摩希だった。

 Tシャツの上に短いベスト、ショートパンツといった活発そうな出で立ちの彼女は、まだ少し眠たそう顔をしていた。そこで、俺は電車の窓を開け、彼女に呼びかけてみた。 

駿「お〜いっ、相摩〜!」

 辺りに人影は少ない、俺の声ならば充分届くだろう。しかし……

相摩「……?」

 一瞬、振り返った希はキョロキョロと辺りを見渡したが、俺に気づかなかったのか、すぐにまた反対側を向いてしまった。

駿「お〜い、そう……」

 もう一度彼女を呼びかけようとしたが、反対側のホームに電車がやってきた。それと同時に俺の乗っていた電車が動き出してしまった。

駿「ま、いいか……ふあぁぁぁ…」

 どっちみち、学校で彼女と会える。なら、今、無理に話す必要はない。そう考えた俺は発車したシカ電に揺られながら次の駅までの時間を寝て過ごした。

 危うく駅を通り過ぎそうになったけれど…

 待ち合わせの時間は、昼の11時。澄空駅前の時計台を見上げるとちょうど15分前だった。学校までは俺の足で約10分。

 ただ絵の手伝いをして欲しいと頼まれた事は分かっているのだが、それでも、女の子から誘われたのは、数日前を合わせて二回……やっぱり、緊張する………

それにしても………

駿「はぁ……なんでここらへんの学校ってのはこう、坂の上ばかりなんだ…」

 愚痴ってばかりもいられない。俺は、とりあえず、時間に間に合うように俺は、坂の上にある澄空学園に急いで足を運んだ。


 俺は学校に到着すると、いつものように下駄箱で靴に履き替えていると声をかけられた。

久「あれ、駿。何やってんだ?」

駿「ひさ…やん……」

 うわ〜、とんでもない奴に見られた。こいつは、上田久。高校に入ってからの友達で、俺はひさやんと呼んでいる。そして、学校では「Mr.チクリ魔」という名で通っている

 …まぁ、こいつにどんなことをされたのは、皆さんの頭の中で考えてくれ。

久「何だよ、その反応は……人を疫病神みたいに。」

駿「いや、多分、誰もがそう思ってると思うけど……」

久「ん?」

 不服そうな顔をする久。こんなところで言い合いになって、遅刻……なんてみっともないので話題変えて、この話の方向を変えてみた。

駿「まぁ、俺はんなこと全然思ってないけどな。って、それより、お前こそこんなとこで何してんだよ?」

 俺と久は同じ帰宅部だった。…過去形の理由は、俺が美術部に仮入部したからだ。ま、それは置いといて、帰宅部のこいつが、休みの土曜日に学校にいるのは、明らかにおかしい。

駿「まさか…呼び出しか?」

 思いあたるふしが、これしかないっていうのも悲しいが…ま、俺たちが帰宅部の時に色々悪さしたからなぁ……仕方ないか……

久「違ぇよ。宿題を忘れたんだよ。」

駿「お、お前が宿題のことを思い出すとは……」

久「何だよ?」

駿「有り得ない。今日は雨だな……」

久「な〜に〜〜?おま……」

 俺たちのいつもの会話をしていて、ふと時計を見ていると11時15分

 ……11時15分!!

駿「どわぁっ!ま、待ち合わせの時間がぁ!!」

久「あん?待ち合わせ?お前、彼女でもできたのか?」

 目を光らせる久。でも、そんなことを気にしていられない。い、急がなければ……

駿「あ、いや、このことについては今度話す!またな、ひさやん!!」

久「あ、おい!駿!!」

 背後から聞こえる久の声を無視し、俺は急いで3階の美術室へと向かった。

 そして、美術室に近づくと半開きになったドアが見えてきた。そのドアから、怒られないかと恐る恐る覗くと、既にみなもが作業を始めていた。

 大きなキャンバスに向かっている彼女は横顔は真剣そのもので、完全に作品に没頭している。俺は、思わず入り口で足を止めると、そのまましばらく彼女が描くのを見つめ続けていた。

 彼女が今、手をいれているのは、この前見せてもらった、あの黄金色の海の絵だった。俺はてっきりあれで完成していると思ってたけど、どうやらまだらしい。

駿「……」

 周りから見ればストーカー間違いなしだな……そんなことを考えていると、後から肩で息をついてやってきた相摩に声をかけられた。

希「あの……ハァ……速見さん…ハァ、ハァ……ですよね…?」

駿「お、おぅ。相摩か」

希「ハァ…ハァ…」

 駅から、ずっと走ってきたのだろうか…… まだ、息が荒い。

駿「とりあえず、深呼吸したほうがいいぞ?」

 と、提案してみる。希も、そのほうがいいと思ったのか、深呼吸を始めた。

希「スゥー、ハァー、スゥー、ハァー……ふぅ。」

 ようやく、落ち着いたらしい。そこで、俺はなんで遅れたかを聞いてみることにした。

駿「ところで、なんで遅れたんだ。」

希「え?あ、それはですね……」

 彼女が説明しようとした瞬間…

みなも「速見君、人のこと言えないでしょ。」

駿・希「うわっ!」

 美術室のドアが急に開いて、みなもが現れた。鋭い突っ込みがナイス!って、んなこと考えてる場合じゃない。とりあえず、謝ることにした。

駿「わ、悪い…友達に会ってさ、喋ってたら……ハハ」

希「私は、画材屋さんに行ってて、それで…ご、ごめんなさい」

 ん、画材屋?それじゃ、駅で見かけたのは誰だ?

駿「画材屋?」

希「はい、絵の具が切れてたんです。それで……」

駿「それじゃあさ、あの時……」

 そう言いかけた時、みなもに話を中断させられた。

みなも「はいはい。話は中で聞くから、早く入って。」

駿「あぁ、分かった。ごめんな。」

 再度、謝るとみなもは許してくれたようだった。

みなも「もぅ、分かったから早く入ろう。ほら、希ちゃんも…」

希「う、うん」

 なんか、上手くはぐらかされた気がするけれど……ま、後でも聞けるし、今は気にしないでおこう。

 そして、俺たちは、美術室のドアをくぐった


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